タマイアトリエ 1級建築士事務所が手がける
千歳台のリノベーション / I邸
きっかけ
環八通りから少し入った住宅街に建てられた建売り住宅。築浅物件を老後の生活も考えて、使い勝手の良いようにリノベーションをしています。
ーーーーー数多くの設計デザイナーから玉井さんを選ばれた理由は何でしょうか?
(お施主様)
最初から大手に頼む気はありませんでした。小回りの利くしっかりしたところに頼むつもりでした。それにこういったちょっと変わった作りを頼むと、オプションばかりになり費用もかさみます。それでたまたま巡り会えた玉井さんに依頼しました。
当初は、5名程度の設計候補がおり、最初に、設計する条件を幾つかお伝えしました。そのデザイナーの中で、しっかりと条件をクリアした上で、理想的な提案をしてくださったのは玉井さんしかいませんでした。
条件の一つに、回り階段をまっすぐにして欲しいというのがありました。というのも、将来、足腰が悪くなり階段の上り下りがきつくなった場合、昇降機を付けたかったからです。もちろん周り階段でも付けられますが、それだと設置コストが高くなります。そもそも回り階段というのは占有面積を少なくするための方法です。一人で暮らすので、きつい回り階段よりスッキリとまっすぐにしたかったのです。
そういったことも含めた基本となる持病のこと、趣味のこと、老化のことという条件やコスト面、また使いやすさなどの点を考えても、玉井さんの提案しか考えられませんでした。
ーーーーー最初から注文住宅では考えなかったのでしょうか?
(お施主様)
最初はそう思っていました。近くに住んでいる高齢の母親と話し合い、お互い同居は止そうとなって、近くに建てるつもりでした。ただ残念ながらこの辺りは土地が結構な値段がします。多少の預金はあったのですが、土地代だけで無くなってしまいます。それならと、リノベーションを前提に建売りを買うことにしたんです。
新たに作られた開口部。
提案する上で気をつけたこと
ーーーーー築浅の建売り住宅をリノベーションするというちょっと変わったご依頼ですが?
(玉井)
そうですね。デザインといっても生活のことですので、しっかり施主様の生活スタイルを理解することが重要です。
家にいることが多いと思われましたので、それを念頭において考えました。
また何といっても築浅のこの建物を建て替えるのが良いのか、それともある程度残して作り変えるのか、施主様の財産を守る為にも慎重に選択しなければいけません。その上で、この建物のポテンシャルをもう一度見直し、新たな環境を生み出せるように考えました。過去にクリエイティブなお仕事をされていた施主様は、アイディアや空想などの発想が豊かな方ですので、施主様の当初の考えより一歩先に進んだ設計を提案しました。
具体的には、今まで住まわれていたものよりさらに空間の大きさと機能をしっかり考えました。建売り住宅というのは、基本的に万人向けのもので「まぁ良いけど、ここはこうして欲しい」といったことに対応できていません。
先ほどの階段のお話もそうですが、多くの設計者は、空間のイメージを大きく左右するので階段の位置を動かすのを嫌がります。結果、端に押しやられて最後に「余り」として考えられます。僕の考えからしますと既存の階段が、お施主様の希望や生活スタイルにまったく合っていないと思いました。
基本的に回り階段は勾配が急で危険です。それにまっすぐにするには、大きな梁を切らないといけない。そういった勇気は必要ですが、安全性の確保は十分に考えられました。そこで妥協しても不満が残りますし、コストのコントロールは他の部分で考えれば良いことでした。
(お施主様)
私はアメリカ映画が好きなのですが、向こうって土足で玄関に入るじゃないですか。そんなのに憧れていました。その要望を取り入れてくれたのが、この建売りにしてはかなり大きな玄関です。土足のまま入ってこれます。ここを玄関兼応接室のような形で使えるようにして頂いたのがとても気に入っています。
(玉井)
この玄関の増築は2.3平米です。全体では減築もあるのでプラスマイナスで増築0.23平米です。これだけでも確認申請を出さなければいけませんでしたが、気に入って頂けて嬉しいです。
ここ最近のコロナ対応も考えても非常に有効ですね。玄関を広くした分、他の場所が狭くなるというデメリットも考えられますが、他の部分は様々なテクニックなどで十分対応可能です。
新たに設けた開口部からはお隣の梅の木がすぐそばに見えます。この木を介してお隣様とコミュニケーションが計れます。こういったことも重要な要素です。
(お施主様)
お隣さんはこの梅の木をとても大切にしていまして、改装の際に切られないかとても心配していました。私自身は、こちら側に枝が伸びて来ても気にしません。むしろ緑が増えて嬉しいですよ。今では梅の実ができる時期をお互い楽しみにしています。
減築したベランダ
(玉井)
2階はベランダ側の部屋を少し減築してベランダを広くとりました。
1階の採光が足りませんでしたので、天井からの明かりを計算して居室にしました。また、天井裏の熱や湿度を整えるために換気装置を設置しました。
デスクからは、外の環境がしっかり感じられゆったりと過ごせます。寝室からはガラス戸を通して外まで視界が抜けています。
減築を説明する玉井さん。
密集した住宅街ですが見晴らしが良いです。
天井からの採光。
キッチンへ降り注ぐ陽の光。
施工に関して
施工は多くの注文住宅を手がける内田産業さん。現場の大工さんお話を聞きました。
ーーーーー今回は築浅のリノベーションですがあまりないのでは?
そうですね。でも躯体がまだまだしっかりしていますからやり易いですね。
ーーーーー設計上で大変なところはありますか?
特にはありません。階段の場所を変えるというのは、ちゃんと生活スタイルを考えているんだなと思いました。こういったオリジナルの設計は作っていて楽しいですよね。それにちゃんとお施主様の顔が見えるような仕事をしたいですね。
こういったしっかりとした現場の方が施工して、さらに能力のある現場監督が管理し、設計デザイナーが全体を俯瞰しながら見守っていく。これが理想的ですね。
築浅の建売りを、将来を見据えてリノベーションするのは比較的少ないことです。しっかりとした設計デザイナーに出会えれば、予算も含めて、大きな可能性を見出せることにもなります。
こちらに施工前(左)と施工後(右)の平面図を載せておきます。
どこをどの様な意図で変更したかお分かりになると思います。
建売り住宅や旗竿地でもしっかり対応し、お施主様の内なる声をしっかり設計に反映する玉井 清さん。依頼する側にとってはこんなに安心できることって有難いですよね。
古くなったからといったリノベーションではなく、将来を見据えての決断でした。築浅の建売りを自分の生活スタイルに合わせてリノベーションしていく手法は、ある意味画期的でもあります。予算的にもこの手法は使えるのではないでしょうか?建売りを買って、すぐにカスタマイズしていく。新たな可能性を秘めているのかも知れません。
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