建築の面白さ、すばらしさを、建て主はもちろんのこと、建築にかかわった人たちと分かち合いたい。
株式会社エコライン 代表 小野 加瑞輝
どういう経歴ですか?
東北工業大学建築学科を卒業して入った事務所が、斎藤邦彦アンドアソシエイツで、19年間在籍し独立しました。もともと祖父が大工で、父が建築士という代々建築一家です。それで建築の道に進もうと子供の頃から思っていました。大学に入ってからもやはり設計が好きで、建築の道をそのまま進みました。勤務時代は、住宅や公共施設などいろいろな建物を担当しました。携わった都市計画やまちづくりが今では財産となっています。
独立当初は、皆さんご祝儀的に仕事をくれるんですよね。役所で担当していた仕事を、そのまま引き継がせてもらえたりもしました。まちづくりもそうです。豊島区で修復型のまちづくり、防災まちづくりを行なっています。災害に弱い街を、地元の方と協力しながら改善し、防災ができる街に作っていくものです。それが今でもずっと続いています。雑司が谷はずいぶん長い間続いています。
いま携わっているのは、小学校の廃校跡地を公園にする計画です。その事業が開始してからかれこれ10年くらい経過しています。一般的に広い道路に面している土地は、大抵の場合、高層ビルが建つのですが、そこは道路が狭く解体工事も難しい密集した場所です。区のまちづくり事業と一体化して、同時に道路も整備して公園を作ることになりました。ただ、道路の完成を待ってはいられないので、先に公園を作ることとなりました。工事のための道路は検証した結果、電柱などを移設しながら、何とか8t車が通れるルートを確保しました。
設計の特徴と進め方は?
基本的に、相手が望むことをどう引き出すかですね。自分のオリジナリティを前面に出す方もいらっしゃいますが、私の場合は、いかにお客様に満足感を持ってもらうかというところに重点を置いています。
まちづくりでも、ワークショップで皆さんの意見を調整しながら同意を得ていくのですが、通常の建築の場合でも同じことをしています。普段は言いづらいことも、こういったワークショップを通じて気兼ねなく話してもらっています。実際そういった声も多く、感謝の声を聞かせて頂くこともあります。言葉足らずのことも理解し合えることができ、家族間のイニシアチブに左右されにくいのが特徴です。家に持ち帰って改めて話し合いとなるとなかなか難しいことが多いです。こういった場で気兼ねなく話して頂こうと考えています。
まちづくりの場合は白紙の状態から始めます。まったくの先入観なしです。予算等はありますが、計画案としては白紙です。そこから地元の皆さんの意見を聞きまとめて進めていきます。大事なのは多数決をしないことです。なぜかというと、多数決で負けた方は0(ゼロ)になってしまう。そうではなくて、どこか一方を100%叶えるのではなく、全体としての調和を整えます。そうすると皆さん、概ね納得してもらえます。0(ゼロ)になってしまうと、人間関係も悪くなってしまう場合があります。良いまちづくりを目指しているのに、それでは意味がありません。
会社組織でも同じことです。以前携わった店舗設計の仕事ですが、カリスマ社長にワークショップを開催しましょうと提案しました。それで「ここは無礼講でやりましょう」と進めたら、本当にたくさんの意見が出てきました。結果としては、会社の風通しも良くなったと思います。
建築診断もされていますね。
建築士会の相談委員として、ご相談を頂いていますが、実際はなかなか手を差し伸べられないことが多い。そこで、弁護士さんと一緒に相談所を作りました。例えば、裁判するときは弁護士がしっかりフォローするといったことが可能です。相談業務ではいろいろな事案が出てきます。それは企業の大小に関わらず、多くの建物の問題があります。実際、建築士としてそういった問題を無くすためには、キチッとした図面を書いて、監理をしっかり行うことに尽きると思います。
あとは良い工務店を選択することです。安かろう悪かろうといった工務店は選ばないことです。それと値段だけで判断しないことです。やはり工事費の問題は大きいですが、安く作ろうとするシステムの問題があります。
下請けや孫請けは、極端に削られた予算で仕事を進めなければいけない。そうなるとどうしても手を抜かざるを得なくなりがち。元請けもきちんとチェックしなければいけないのですが、ほとんどチェック機能が働いていないのが現状です。担当している方も、施工管理技士などの資格は持っているものの、担当件数が月に何十件と非常に多い。そうなると当然すべてを廻りきれない。現場に行って問題点等を大工さんに言われても、適切な対応ができないことも多い。そういった問題が起きる物件は、確認申請の図面しかない場合が多いです。すべてが現場任せになっています。そうすると調査に時間も費用も掛かります。
とはいえ、そういった欠陥がある住宅を、知らずに買ってしまうお客様にとっては大問題です。そういう意味ではしっかりとした設計事務所に依頼し、監理をしっかりしてもらい家を建てるのも良い方法だと思います。
今後の仕事の進め方は?
まちづくりと建築で忙しい日々ですが、時間をしっかり掛けて作っていきたいですね。欠陥住宅問題を扱っていると、どうしてもオーソドックスなデザインになりがちなのですが、なるべく空間としてもっと良いデザインを目指したいと思っています。空間の大きさもそうですが、いつも居心地が良い空間を作りたいですね。
それと小さい範囲でも良いので、引退した方々を巻き込んだ地域活性化策をしてみたいですね。例えばよくあるのが、あそこの旦那さんは実は〇〇会社の会長さんだったり、またはある分野の専門家だなど、そういう方々の余っている力を地域のために活用できたら良いですよね。仕事も回って活性化もできます。ただ男性は地域デビューしてないことが多いです。そういった方々も知恵を出してもらい地域の活性化をしていきたいですね。
長年、まちづくりな携わってこられたので、意見調整は得意なのでしょう。インタビュー中に私が口を挟んでしまっても(失礼!)ちゃんときいてくださいました。関わったことのある方には分かるのですが、役所の仕事って、時間軸が違いますからなかなか忍耐のいる仕事なんです。そんな忍耐強い方が違法建築などの相談もしてらっしゃるのは心強いですね。「相談ばかり来られても大変だけど」と苦笑いしてらっしゃしましたが。でも安心感はとてもありますね。
この記事へのコメントはありません。