快適で住み心地の良い住宅を創りたい。その上で「快適さ」「心地良さ」を深く掘り下げ追求していきたいです。
一級建築士事務所 アトリエスピノザ 代表 井東 力
簡単な経歴
東京大学建築学科を卒業して入った事務所が、木村丈夫さんと野田俊太郎さんが設立した、建築環境計画TAOというところです。今で言うところのデコン(脱構築主義建築)になるのかな。当初は、手作り感があって新鮮だったのと、事務所を訪れた時に、ちょっとやってみないか、といった感じで掴まってしまいました。そこは長くはいなかったのですが、大磯の木造住宅を担当し、時間をかけてじっくり仕事をさせてもらいました。その次は堀池秀人さんのところにいました。オフィスビルや、海外のリゾート計画などを担当しました。その後、バブルが弾けて、そう多くは実現しなかったですね。
それから、北代さんが創設した現代建築研究所に入りました。東京国際フォーラムの国際コンペがありまして、現地のコンサルということで、設計を任されました。具体的には、そこに入る店舗設計を担当しました。他の仕事としては、板橋区立図書館や、立川にある昭和第一学園の校舎の設計や、千葉興業銀行、東京大学の施設といった仕事を、約10年くらいしてきました。最後の方は、マンションやデザイン監修をしていまして、それを糧に独立し、コンペに明け暮れていました。年間15件くらいは応募していました。独立していきなり取れたのが「美しが丘の家」でした。
それと、梅ヶ丘の家も同時に取れ、その他の仕事として、大手ディベロッパーのマンションのデザイン監修を行っていました。
最初は、公共の建物のような仕事を予想していたのですが、当時は、住宅の仕事が多かったんですよね。住宅は、大きなプロジェクトと比べて事業規模としては小さいですが、一人で全体を見渡さなければいけません。細かいところまで気を遣わなくてはいけませんから、それはそれで面白いですね。
マンションの設計をする場合は、もっと意匠的に面白いものを作ってみたいですね。というのも、少し前は、マンションデベロッパーもデザイン競争をしていました。特に、共用部やランドスケープなど、随分こだわっていました。施工も、竹中工務店や大林組だったりと、そのくらいの意匠的完成度を求められていました。ところがあの後、姉歯事件がありまして、一気に意匠的なものではなく耐震性などの方向に行き、それまでの価値基準が壊れましたね。
デザインの提案方法は?
お客様にもまず言うのですが、せっかく作るのですから、最初から予算を気にし過ぎて計画するのは止めましょうと。とりあえず引き出しは全部開けて、可能性をつぶさに調べて、設計に反映させて、工務店に投げてみましょう。その上で優先順位を決めて頂いて、予算オーバーなところは少し加減したり、諦める場合もあったりと、調整しながらの進め方をしています。
ただ最近は、全体のコスト高に対応するのが大変ですね。こちらでも頑張って予算に合わせていきますが、お客様の方でも、融資などの対応もあり大変ですよね。
デザインの特徴は?
一口には言えないですけど、窓が多くて、いろいろな方向から光が入ってきて明るい、とはよく言われますね。必ずしも南側に窓を大きく開けるかと言うとそうでもなくて、北側の安定した、青い空を見えるようにしたりします。小さい家でも、視線が外に抜けるように配慮します。窓の配置に非常に気を使いますね。光の入り方や、広さの感じ方が全く変わってくるので。
それと、必ずどこかとつながっていくことは意識しています。外と中や、内部でも上下階が繋がっていたりと、それが楽しさに繋がっていたり、気持ち良さに繋がっています。
基本的には、空間を一様にはしたくないというのがあります。生活を切り取ってみても、くつろぐ所、開放感を感じたい所、籠りたいところ、いろんなキャラクターが、空間にはあって当然と思います。そうすると、例えばキッチンとダイニングは機能的ではあるけど、それほど天井高は必要としない。逆にリビングなんかはひたすら開放感を求める空間になっていて、天井を高く取っていく。その高低差を利用して、北側から光が降り注いでくる。それと同時に、外部の空間もあり、そこと内部が立体的に目線を交錯できます。
高さというのも、ボリュームとして上限が決まってますから、開放感が要求されるところや、然るべきところに割り振ってあげて、空間のキャラクター付けや、その強さ・メリハリといったものを大事にしていきたいと思っています。
お客様には、過去の事例からか、明るさを求められることが多いですね。和風建築みたいな、しっとりとした陰影が効いたものもできます。ホームページや、そういったものをご覧になって来られる段階で、モダンで白畔明るい家を望んで来られるのでしょうね。
でも過去に、天井の高さが1.85mの2畳の和室をリビング近くに提案して、思いがけずお施主様に喜ばれたこともありますよ。家族みんながそこでぎゅうぎゅうで寝たりして、出たら開放感があって気持ちいい、なんてこともあります。
こういうのがあることで、それぞれの部屋にキャラクターがあって、その楽しみ方を日々発見できると思います。
均質なただ広い部屋があっても間延びしますし、それはそれで落ち着かない。家の中に、いろいろな楽しみ方ができる部屋があることが大事なのかなと思います。
初対面のお客様への対応は?
ありのままですよ。ハウスメーカーみたいに、モデルハウスを持っているわけではないですし。タイミングがあれば、オープンハウスにご案内したりはします。やはり実物と写真は違いますから。タイミングが合わなければ、資料写真や実作の模型をお見せします。
土地探しの相談もあります。希望の土地に、どういったものが建つかなどもありますし、土地自体を探している場合は、連携している会社様をご紹介致します。近ければ、現地の確認もしたりします。先日も、狭小地に本当に建てられるのか、ということでいらっしゃった方がいます。
最近は、50坪の住宅や、狭小の敷地もあります。平均して、都内だと30坪程度が多いですね。ただ、予算配分の中で、土地と建物のバランスが取れていないことが多いように思います。ローンを通す段階で、建築費用を見積もる費用が安過ぎる場合が多いです。不動産会社さんもよく分からず、坪50〜60万程度で出してしまう。現在の建築費用相場では、かなり厳しいものになります。そのまま審査を通してしまうと、後々、予算が足らなくなってしまいます。こういうことが事前に解決できれば良いのですが。
設計上で大切にしていることは?
お客様の気持ち良さを大切にしています。それと満足度を外さないことですね。要望を叶えることはもちろんですが、それを上回るサプライズを用意していきたいなと。それを叶えるため、最初にどっちの方向に行くかというベクトルの設定を、見誤らないようには心掛けていますね。その方向のお客様がイメージする着地点よりは、先に行かなければいけないと思っています。そういった意味では、ルーティンの仕事にならないように、常に新しい試みを入れていこうとはしています。マンネリになってしまったら、ウチみたいな事務所の意味はないですし、常にチャレンジはしていきたいとは思っています。そのチャレンジすることによって、お客様より先の着地点に行けますし、それが上手くかみ合えるようになればと思います。
良い工務店を選ぶ基準は?
工務店って世に数多ありますが、建築家と付き合って、きちんとディティールまで読み込み施工できる工務店って、意外と少ないんですよ。費用も、坪単価などが確立されているジャンルではないんです。工務店の良し悪しっていうのは、工務店もさることながら、現場監督や職人の良し悪しなんですね。要するに人です。またその会社が、それぞれの働く「人」を支える体制になっているかです。それがうまくかみ合っている会社が良い工務店です。
東京個草尾フォーラムなどを手がけてきた経験があり、オランダの哲学者の名を社名にしていることから、ちょっとお堅い人かな?なんて想像しましたけど、会ってみるととっても気さく。理性的に物事を考える冷静さと冗談交じりに話すその姿に癒されました。明るく解放的な家を作る依頼が多いというのも頷けますね。
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