コミュニケーションを大切にして、光があふれる家で人生も明るくなるように心がけています。
株式会社河原泰建築研究室 代表 河原 泰
どういう経験を積んできましたか?
1968年に東京で生まれ、すぐに大阪に移りました。そこからは関西暮らしです。92年に大学を卒業し、東京の東畑建築事務所に入りました。そこに10年いる間、三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に2年ほど出向しました。そこでは、主に地域開発を担当し、国の政策で自治体に対し行う省エネ政策などの企画を、シンクタンクとして立案したりしました。建築の一番川上というか、日本という国の仕組みを学んだのはすごく勉強になりましたね。それから2002年に独立しました。
勤務当時の仕事は、文化施設が多かったですね。公共の科学館や文化ホール、変わったところではキリスト教会を担当しました。
独立してからは、芦屋のマリーナを作る仕事をしました。シンクタンク出向時代の知り合いから依頼がありまして、その中のクラブハウスを設計しました。大きさは1500平米くらいです。あとは、東畑にいた頃に並行していたのですが、シンクタンクの社員から自宅の設計を任されました。それが初めての住宅の仕事でした。それからは、大きな施設と住宅を交互に繰り返して仕事が進んでいます。会社組織の仕事でも、最初の提案は割と好きに提案して下さいっていうのが多いですから、そういった意味では、個人も会社組織も、仕事の仕方としてはあまり変わらないですね。とはいえ何でもありという話ではなくて、そういう風にしたのはこういった理由があるんですよ、みたいな。予算感と要望も踏まえて考えると、大抵は、予想を裏切るものを提案することが多いですね。いい意味でね。
寺院を手がけられるきっかけは?
初めて手がけた住宅のお施主様の知り合いに、仏像を彫る人(仏師)がいたのですが、その住宅の外に、守り神として仏像を置こうとなり、欅でその仏師に彫ってもらうことになりました。それをきっかけに、お寺にある天女像の台座を作ってくれないかと頼まれました。そのお寺さんは、大きかったので、修繕しないといけないところがたくさんあるわけですよ。ちょっと見てもらえないかと、修繕も頼まれました。独立してからは、永代供養墓の設計を頼まれました。その後、別院の本堂の設計も頼まれました。ただ、そのとき、あの姉歯事件がありまして、混構造の審査がずいぶん厳しくなり、大変な苦労を強いられました。3〜4ヶ月も掛けて、一つ一つの疑問に答えてレクチャーして。当時の審査官には授業料をもらいたいくらいですよね(笑)。まあお陰様で、建築文化賞を頂きましたが。照明デザインも照明学会で表彰されましたね。その受賞がきっかけとなり、毎年のように依頼を頂いています。
私たちの仕事は、出来上がりがすべてで、途中、これは出来上がりがダメになると思ったら、そこには妥協は一切しないですね。なかなか伝わりにくい面もありますが、あらゆるツールを使って説明していきます。機能的な面での変更は問題ないのですが、ある程度進んだ中で、デザインはこっちの方が良いな、と言われると、色々と悩むことが多いですね。こういう場合は再度、価値観のすり合わせが必要ですね。
集合住宅のアイディアはどこから?
いろんなパターンがありますが、不動産会社さんから頼まれる場合は、やはり建築家としてのアイディアが求められますね。
最近竣工したもので、サイクリストのためのマンションというのを、全面的に打ち出した設計をしました。立地も、荒川サイクリングロードと、秩父の山や榛名山などの真ん中にあります。冬は、スノーボードなどのアウトドアにも適した場所です。彼らの乗っている自転車って高価ですよね。でも一般的な集合住宅では、自転車がエレベーターに乗らない場合や、家の中に入れても、廊下の狭い空間に置かないといけない場合が多いなど、そんな感じになっちゃうことが多い。じゃあ家の中に土間を作ろうとなって。玄関に入ったらいきなり土間です。廊下側から窓まで貫通した土間です。そこに自転車は当然置けます。ローラー台を設けたり、簡単なDIYできるようにして。基本、単身向けにしたのですが、夜中に帰ってきても、土間が緩衝スペースになって、音を気にせず、お隣に気兼ねなく作業できます。階段も、タイヤがハマる溝を作ったりと、ターゲットをサイクリストに絞った賃貸マンションを企画しました。そのオーナーさんとは、ガレージ付き賃貸、ビルトインガレージも作りました。そのオーナーさん自身が車好きで、何台も持っているポルシェを隠しておきたいという理由もあって(笑)。一つだけ作るのもなんだから、賃貸住宅として作ろうとなりました。結果としては、入居待ちの人がたくさんいる人気物件となっています。
医療・福祉関連も多いですね。
最初の病院は、マリーナを計画している時の、仕事仲間のお兄さんが、病院の院長でした。最初はその方の自宅を設計したのですが、すでに他の大手ホームメーカーに決まっていましたが、どうも要望に答えられていない。それでこちらに依頼され、結果的には気に入ってもらえました。それから、じゃあ病院の方も直したいということで、改修から始まりました。そうすると、一度経験を積んだものですから、別のところからも計画のお話を頂きました。また、初めに設計した病院の系列や、同門の方をご紹介頂いたりして繋がっていますね。病院の設計って大変なんですよ。先生と現場サイドの看護師や、患者さんの言うことがまるっきり違うこともありますから(笑)。お互い相入れない場合も多い。患者目線では快適性が求められるのですが、看護師的には、快適性より作業効率性を求めます。それとは別に、先生側や事務局側の意見もあります。意見調整がなかなか大変ですね。
その中で設計士としての個性は?
ある意味社会福祉施設も同じなのですが、やはり患者や入居者から選ばれる施設かどうかですよね。ソフト的なところはありますが、ソフトをしっかりこなせるようなハード面が必要ですね。福祉施設の場合、入居者が安心して暮らしていける建物かどうかです。往往にして詰め込んでしまえ、みたいな建物が多いですが、それだとなかなか、選ばれる建物として成立していません。やはり施設内で快適に暮らせる要素が必要です。風通しだとか日当たりとかね。2年ほど前に作った施設が、建築文化賞を頂いたのですが、全室角部屋にして、角と角の間にリビングを入れて、いわゆる大食堂みたいなものは作りませんでした。普通の住宅に近い作りにしました。
設計のポイントは?
光ですね。もちろん風通しも大事ですが、施設によっては考えなくていい場合があります。人間って、洞窟の住居から始まっています。建築の成り立ちから考えると、雨風をしのげるという意味合いもありますが、一方で、快適性を求めるという側面もあるんです。それって光を求めていったのかなと。やはり照明だけでは、太陽光の代わりには成り得ません。陽だまりにいた時のポカポカとした心地良さを、建物の中でもしっかりと感じてもらいたい。計画段階で必ず模型を作って、日当たりを確認しますね。施主様に言われなくても勝手に考えますね。照明なんかですべてをカバーすると、いま何時かも分からない。陽の光を感じながら、時間のサイクルや天気を感じ取ってもらいたいですね。
お客様には、そういったことを含め、自分がどういうことができるかを知ってもらうことが大事だと思っています。最初のプランは無料で書きますが、そこで、僕はこんなことができますよ、とお伝えするんです。それで僕の能力や個性や相性を知ってもらえれば良いかなと思っています。
いつもインタビューをするときは、このデザイナーはどんな性格なんだろう?どんなデザインをするんだろう?と考えています。河原さんの作品の芸術性の高さは、特に大きめの施設に表れています。前衛的なものや伝統を受け継いだ正統派なデザインまで発想できる宗教施設が良い例です。医療施設も豊富な経験があり、裏話も含め興味深いお話を聞かせて頂きました。また機会を作ってお聞きしたいですね。
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