ラブアーキテクチャーの浅利幸男さんが手がける
羽根木集合住宅-竣工/アパートメント縁
ラブアーキテクチャー の浅利幸男さんが手がけた羽根木の集合住宅がついに完成しました約11ヵ月を経てできあがった様子をお届け致します。
美意識が詰まった集合住宅が完成
駅を降りてほんの少し歩くと一際目を惹く木製サッシが現れます。
内覧会ということもあり多くの関係者や見学者が来られています。感染対策をしてさっそく中を見ていきます。
この集合住宅のオーナー宅部分は全部で4世帯が住む大家族の構成です。これだけ多くの家族がいると部屋などの分け方や動線が非常に複雑になりがちですが、浅利さんがどのように工夫しているかが非常に見ものです。
最初は1階のオーナー宅を見ていきます。
まず目に飛び込んできたのは一面研ぎ出された床コンクリートの光沢です。コンクリートを打った後に専用の機械で研磨をかけるのです。
なぜこの床を採用したかというと、オーナー様が大型犬を飼っておられ、普通の床材や木の床にすると傷が目立ち劣化が早くなってしまうという理由でした。1〜3階のファサードの窓はすべて木製サッシを採用しています。テーブルはデンマーク家具を中心に取り扱うBoConceptからセレクト。
オリジナルキッチンは両サイドに犬が入らないように開閉可能な引き戸を設置してあります。天板はクウォーツストーン。広さが作業効率を高めます。カップボードはオリジナル。細かい引き出しの造作が非常に丁寧に作られています。
キッチンの横には家族の個室が並んでいます。それぞれの個室も落ち着いた雰囲気で過ごせそうです。前回、内装工事を取材した際に見た、木製の戸当たりなどの繊細な仕事ぶりが見て取れます。
こちらは1階部分のバスルーム。
こちらは2階の賃貸の部屋です。天井にあるライトは非常に小さいですが光量のあるものを採用しています。全体の雰囲気を壊さず暮らしやすい環境を整えた部屋です。
賃貸部分のトイレとバスルーム。
こちらは3階のオーナー宅。
キッチンは作業スペースがステンレスで覆われ非常に使い勝手の良い造りになっています。
注目して頂きたいのがこの引き出しの取っ手。使いやすいように上からも下からも手が掛かるようになっております。またカウンタートップの天板はしっかりとしたクウォーツストーンを採用し、重厚な金属のペンダントライトが優しく手元を照らします。
ゆったり落ち着きあるソファーと厳選された床のタイル、丁寧に作られた家具の調和が安らぎを与えてくれます。
こちらはリビングと反対側にあるマスターベッドルーム。
快適感満載のバスルーム。
屋上はとても景色が良く、ここでゆっくり過ごしたくなります。また、入口の構造部分の天井がそのまま屋上にまで統一感を出しているのが分かります。
厳格な構造グリッドで複合的プログラムに秩序を与える
(浅利さん)
オーナー様にはデザインを全面的に信頼して任せてもらえましたので感謝しています。
その一方で、広さの異なる多世帯や賃貸の複合による集合住宅は無秩序なデザインや間取りになりがちです。そこで、構造にあえて厳格な耐震壁量やその位置、構造スパンが求められる壁式鉄筋コンクリート造を採用し、構造グリッドを意匠にも利用し現すことにしました。賃貸住宅を含むオーナー各世帯や共用部分が求められた面積になるだけでなく、室内の使い勝手と呼応するように構造グリッドを決めて、梁や耐震壁の小口として見えてくる構造グリッドは生活を視覚的に分節するだけでなく、繰り返すリズムが廊下の奥行きを生み出したり、空間を立体的に見せています。
上下に構造部が綺麗に並んでいます。そのまま入り口まで繋がっています。
全ての物件に言えますが、こういった暮らしやすさや間取りの計画というのは、私たちにとっては出来て当たり前のことなのです。お施主様が望んでいるのはその先の部分。情緒や落ち着いた佇まいなど、言語化し辛い空気感です。
会社としてもどんな物件でも、例えばものすごく小さな物件であっても、そういったクオリティーは当然超えていかなければならないというのはあります。
そういうクオリティーを作り上げていくのは非常に苦しいですね。いつも苦しんでいます(笑)。予算もありますからね。
また建築の設計だけでなく、インテリアコーディネートも提案致しました。我々でデザインしている造作家具のほか、置き家具に関しても、こちら側でセレクトしています。
建築設計は構造計画や設備もあるので常に全体的な思考回路で進みます。
一方インテリアは隣り合う部分の関係性で進む事が多く、建築設計と思考回路が異なる事があります。両方の思考回路を持つことで質の高い建築作品を生み出せると考えています。
今回採用した3階のオーナー宅の天井の葦や床のタイルは、だいぶ探し回って見つけました。国内メーカーはもちろんですが、輸入資材も含めて一つ一つ検討しています。 探す時間は非常に掛かりますが、妥協なく仕上げていくようにしています。完成度とお施主様の満足度を高めることが重要ですからね。
現場を終えて
今回の現場作業を支えてくださったのは、建築会社岩本組の藤木さんです。
浅利さんのこだわりをしっかり形にするために、日々職人さん方をまとめ、時には厳しい指示を出すこともあったようです。
ーーーーーお疲れ様でした。
(藤木さん)
お疲れ様でした。
なかなか大変でしたが何とか終わりましたね。最後の方はバスルームの作業すべて在来なので少し大変でしたが何とか収めました。
今まで多くの建築家の方々と一緒にお仕事させて頂きましたが、浅利さんの設計は統一感が素晴らしく「チリがない」。逆にそこは現場としては、ミリ単位でズレを発生させないようにしていかなければならないので大変なのですが。
チリがない構造とカーテンボックス取り合い部。
私の役目は設計者が書いた図面を理解し、造りたい建物を現実にすることです。その為には現場で妥協せず仕上げていくことが重要です。私が妥協した時点で職人も妥協しますし、仕上がりもそれなりにしかなりません。自分との戦いですね。
とはいえ予算の問題もあります。すべてを優秀な職人だけで固めると予算を超えてしまいます。それなりの職人でもしっかりとケアしていくことで、普段以上の仕事をしてもらうようにします。ある意味そこが私たち現場監督の腕なのでしょうね。
そう意味でいうと今回の出来は70〜80点はいくと思います。約11ヶ月の間に諸々反省点もありますが、それはまた次に活かしていこうと思います。
最後に平面図を載せておきます。
1階がオーナー宅でエレベーター完備。2階が6部屋の賃貸部分があり、3階は2部屋が賃貸で他の部分はオーナー宅です。そこにまたオーナー宅と繋がる屋上テラスがあります。
ラブアーキテクチャーの浅利幸男さんが集合住宅を造るというので楽しみにしていました。基礎段階で松崎さんが言われていたことを現実にすると、造るの大変だっただろうなぁと漏らしてしまいそうな完成度でした。それにしてもセンスって大事ですね。現場を仕切っていた藤木さんもさすがです。こうやって資産価値のある、価値が落ちにくい集合住宅が出来上がっていくのですね。と、乱立するアパートたちをふと思い描いて残念な気持ちにもなっていきます。
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