氷川台S邸

株式会社結設計の藤原昭夫さんが手がけた

小幅板が張り巡らされた天井が美しい住宅

株式会社結設計の藤原昭夫さんが手がけたのは、お寺の住職さんが裏の高台の敷地に建てられた住宅です。


見晴らしが良い緑いっぱいの家



(藤原さん)
きっかけは、以前に横浜でご依頼頂いたお客様の親類ということで、紹介いただきました。その時に設計したリビングの天井をすごく気に入って頂き、自分たちの家もこの天井にしたいということでご依頼して頂きました。お施主様の奥様曰く「設計の最中に色々と口出しをしましたが。結局はしない方が良かったかもしれません。最後は上手くまとまりましたね。」とのことでした。










よく自然素材の木を多用した住宅というのは、我々建築家でもよく使う手法の一つですが、木をしっかり感じさせた上で、その木が機能的な働きをしている場合はそう多くないのではないかと思います。
このリビングダイニングの天井もそうですが、天井全体がオイルフィニッシュされた小幅板で覆われているところに、シーリングライトが真ん中にどんと占めていては天井の良さが失われます。ライティングの工夫することによって、意図した雰囲気を保つようにする必要があります。照明器具が見えないので一見暗い部屋になると思われるかも知れませんが、光量はこれでも多いくらいです。決して暗いということはありません。ダイニングテーブル上のライトは、直接目に光が当たらないように上下に光が向いています。








ブラインドは天井の小幅板の隙間にロールカーテンを仕込んでいます。普通のカーテンにするとカーテンボックスやレールが飛び出して見栄えが悪いです。ロール自体も外に出すと天井が途切れてしまいますので中に仕込みました。








洗面所には窓はいらないと言われたのですが、東向きでしたので騙されたと思って付けさせて下さいとお願いしました。結果は見ての通り、朝陽が入って気持ちの良い洗面所になりました。








洗濯機は2台設置する予定です。お寺で法事などがあった場合に洗濯の量が増えることも想定しています。洗濯機の横にスロップシンクがあり、使い勝手が良いようにしてあります。要望としては洗濯物の室内干しをどこにするかといったことなどの相談はありましたね。








壁の仕様も、お寺さんという職業柄のせいか、左官仕事に対しても非常に理解がありました。
質感や色使いも楽しく相談しながら決めることができました。角の丸みはこちらが提案しました。








ご住職の寝室。ここにも手洗いがあり非常に便利です。








窓先の目の前の木が桜の木です。何といってもこの緑豊かな景色が最高です。都内で新築時ここまでの緑を望める場所はそう多くはないでしょうね。











一番大変だったのは?



ーーーーー崖上の敷地に建てるということですか?


(藤原さん)
建築確認を取るまでは大変でしたね。崖地の安全上の法的な根拠や構造の計算の根拠など求められました。当初、崖下の敷地に建てて、崖上の敷地に延長していくという考えもありましたが、そうなると全体が3階建てになり、ボードの二重張り等で工事費増になるだけでなく、内装制限で不燃材を使わなければならず、木を思ったように使えなくなってしまいます。さらに予算的にもエレベーターが3フロア分になり、大幅な予算オーバーが予想されました。その対応策として、上の敷地を基準に2階建て仕様にして擁壁の大谷石には荷重をかけずに、基礎梁で跳ね出す構造としました。平均地盤面も下げずに済むように敷地設定して、北側斜線いっぱいに空間を確保できるようにしました。ですから屋根の形は意外に複雑になっています。

施工に関しては職人さんには苦労おかけしましたが、法的な問題はありませんでした。ただ電気屋さんには苦労をかけましたね。プラスチックのモールで渡せば良いところを複雑にしていますからね。全体が木で良い雰囲気になっているところにモールが見えていると台無しですからね。








二人の娘さん用にとそれぞれ個室を設けたのですが、まだ若くあくまで両親の家ということであまり興味を示しませんでしたね。











要望などはありましたか?


(藤原さん)
奥様がお持ちの食器などを飾る場所が欲しいと言われました。
最初の設計段階では予定していませんでしたので、後付けで戸棚を設置するとなると雰囲気がどうしても合いませんので、キッチンカウンターの上部を飾り棚にして自慢の食器を飾れるようにしました。

もともと飾り棚の部分のシンク側に、キッチングッズを隠し置くようにスペースを以前からよく造作でつくっていました。でも次第にキッチンを綺麗に使う方が増えてきて必要性も無くなってきました。それと同時に、飾り棚を置きたいという奥様の要望が増えていきました。
世の奥様方は「そんなに大したものはないんだけどね」と謙遜して言われますが、必ず見せたいものがあるんですね。それでその空いたスペースをうまく活用して飾り棚を設けました。こうするといつも綺麗に並べられているのが分かりますし、内部もライティングされているので眼に留まります。
飾り棚を後付けすると、雰囲気に合わなかったりします。収納というのはとれば良いというものではなく、あるべき場所にないと意味がないのです。 その上でまとめておくべき物は隣のパントリースペースに置けるようにしています。













(藤原さん)
当初は窓側に鉄筋の筋交いがありました。完成間近になると奥様が取って欲しいとの要望がありました。構造上の問題もありましたが筋交いを無くし、階段横の壁が腰までだったのを天井近くまで上げました。筋交いを減らした部分に対する何らかの補強が必要でした。おかげで見晴らしは良くなりましたけどね。








(藤原さん)
予算もかけようと思えばかけられますがやはり限りがあります。できるだけ予算をかけない工夫はかなりしています。工務店も知恵を絞って頑張ってくれました。木も無垢を使っていますので、メンテナンスという意味では傷ついても再度削って新たにすることができますので、費用対効果は非常に高いです。

キッチンのバック収納の下のカウンターはあえて低くしています。普通の住宅メーカーやキッチンメーカーでは通常シンクの高さと同じになっています。そうすると振り返ってポットや何かを置こうとすると高さが足りません。そうすると上部の収納棚の底辺を上げざるを得ない。 そうすると使えない吊戸棚部分が多くなり、実態としては背面収納の上部は倉庫になってしまっています。それに一番使いやすい位置の部分が半分になってしまいます。実際、背面収納の上部を使い切れていない方は非常に多いのではないでしょうか? みなさん食器戸棚は後でつけようと考える方が多いですが、実はそれがキッチンの使い勝手を悪くしています。みなさんはシンクや水栓にはこだわるのですが、最後にそこが悪さをしてしまっているんですね。 そうすると、背面にいろいろ置きづらくなってきて最後はキッチンカウンタの上にものが溢れてしまう。そうなるとせっかく作ったリビングの雰囲気も台無しです。 それで私が設計する時は対面キッチンの場合、必ずこうするようにしています。高さは基本的にダイニングテーブルと同じ高さにしていますので、低いということはありません。








施工はどうでしたか?


(藤原さん)
施工をしてくれたオダ建設さんとは40年くらいの付き合いです。そこにいる、ここも管理してくれた現場監督は実は昔うちの事務所にいた人なんです。
以前、オダ建設さんと仕事をしているうちに「やっぱり僕は施工の方が好きだ」ってオダ建設さんに転職しました。 I君というのですが、今では最高の現場監督になっています。職人さんに対しての気遣い、やり取りやコントロール、お客様への配慮までしっかりしています。時々、うちのスタッフの書いた図面に疑問があると、こういう風にしてはどうですかと質問や提案までしてくれます。
もうここ10年くらいいつもお願いしていますが、見積もりも大抵はいつも一番安いです。というのも、他の工務店では図面を見てわからないことがあると保険を掛けてきます。保険というのは、その工程に対しての工事費を多めに見るということです。
彼の場合は一緒に仕事をした経験があるということもありますが、わからないことがあってもしっかり話せば、こちら側がちゃんと図面を修正したり理解してくれる設計者だということがわかっていますから高めに見積もる必要がないのです。
それでこの地域界隈の工事だとだいたいオダ建設さんに頼むことが多いですね。



ーーーーー信頼が置ける工務店はなかなかいないですよね?



無理難題を押し付ける設計者が多くなって信頼関係がダメになったことも多いと思います。それでは喧嘩になってしまいます。それで二度と設計事務所と仕事しないという工務店もあります。
例えば分からないことがあれば、これを作るのにこういったことはできなのか?こういう方法はないですか?といった話ができないとダメです。 そこの部分でプライドが高くて、よく話せないのはいけませんね。
逆に工務店から相談が来ることもありますよ。こんな設計事務所で困ってしまっていると。お施主様が気の毒ですよね。頑張れとしか言えませんが。
施工会社に対しても先回りして対応していけば、設計者としても立場が変わって来ると思います。やはり設計者としては、現場の施工を確認しながら図面をしっかり書くことですね。職人さんは図面を見ただけでその設計者のレベルがわかりますから。それで程度を見切られることもあります。


このエアコン部分も囲いがありますが、よくその囲いが吹き出しの邪魔をして風が逆流してしまうショートサーキットが働いて止まってしまうことがあります。この部分の施工は、しっかり囲い部分に隙間があるのでそういったことは起こりません。
こういった知識はある程度の経験が必要ですね。考えればわかることですが、そのちょっとした事がとても大事なんですよね。








最後に平面図を載せておきます。細やかな設計が垣間見えると思います。








工事規模 敷地面積:168.06㎡ / 建築面積:90.45㎡ / 延床面積:162.80㎡
構造 木造一部RC造・地上2階建て
竣工時期 2022年7月
予算 -万円
施工会社 株式会社オダ建設
用途 住居
設計デザイナー 藤原昭夫
【編集後記】

お寺の裏にできた新しい家に伺った日は、陽の光がまだ暑い晴れた日の午後でした。リビングに入った瞬間に感じる木の持つ暖かみと開放感。自然素材の使い方も本当の様々だと痛感しました。ライティングはとても雰囲気があり、自分の家ではないのに思わずしっかりリラックスしてしまいそうでした。芸術性と経験はある意味相反するものですが、上手くアウトプットできる設計デザイナーはそう多くはないのかも知れません。


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