西島 正樹 インタビュー

人間の内面と呼応する建築空間

株式会社 プライム 一級建築士事務所  西島 正樹

簡単な経歴をお願いします。


東京大学の建築学科に入り大学院を出ました。 その後、石本建築事務所に入りました。その事務所は当時300名程度在籍している大きな事務所でした。扱う案件も大きかったです。一番小さなプロジェクトで小学校の設計ですからね。年数件のペースでそういった設計を担当させてもらいました。 そこから1989年に独立しました。
独立当初は、住宅と集合住宅が多かったです。他には教会や公衆トイレ、公園や内科医院も設計しました。最初の5年は、そんな分野の仕事をさせて頂きました。
現在は住宅の割合が2/3です。残りの1/3については、ここ6〜7年は幼稚園や保育園が多いです。規模はおおよそ園児数100名くらいの規模です。








お問い合わせはどのように来ますか?


今はほとんどメールできます。ある日突然、お問い合わせのメールがきて、そこから始まっていきます。お客様はインターネットで私のことを知るわけですが、どのサイトをどう見たということは覚えていなくて、いろんなサイトをご覧になった結果、お問い合わせ頂いている様です。
お問い合わせ後、まず設計の概要を伺います。予算・時期などに関して、私たちで対応できるかを確認します。その辺りのお話をニュアンスも含めてお聞きして実現できるか否かを判断します。特に近年、工事費の高騰が激しく、予想していた工事予算の1.3倍掛かってしまうなどのことが予想されます。みなさん、坪単価幾らという覚え方をされているようですが、現実には、個々の事情が違いますし、安いから良いというものでもありません。そういったお話をさせて頂いた後、ご提案をさせて頂きます。

土地相談も、一緒に探して欲しいという方もたまにいらっしゃいます。ほとんどの場合、既に購入済みか既存の土地に建て替えるという方々です。





デザインの特性は?


設計では、自分のデザインを最初から当てはめていくという進め方はしません。その土地や周辺環境やお客様の要望を総合的に考え、いろいろな検討をする中で、一つの案へとまとめあげていきます。そこに至るまで、様々な可能性を考え続けるわけです。こうして導かれる案の中には、これまでの私自身のいろいろな蓄積が自ずと盛り込まれているはずです。その技術や知恵を、バランス良く一体となるように設計していきます。一つを取り上げて、そこを強く押し出していくという方法はとりません。その案を土台に、お客様と打ち合わせ、調整していきます。お客様から変えて欲しいというご要望があれば、なぜそこが気になるのか、その理由を丁寧に聞いて、しっかり意図を汲み取っていきます。ほとんどの方は、家を作るという行為に対して、漠然としたイメージしか持っていませんので、ゆっくりしっかり話し合いを重ね、言葉を解きほぐしながら進めていきます。
どの住宅も、求められる部屋を室名にするのとよく似ています。リビング・ダイニング・キッチンがあってベッドルームや水回り、エントランスなどだいたい決まっているわけです。これだけだと、どの家も同じようになるはずですが、そうはなりません。そこに、お客様ご家族の生活スタイルや趣味嗜好などが加わって、とても多種多様に変化していく。さらに敷地の特徴が加わっていく。これが住宅設計の醍醐味です。お客様と一体になって、理想の姿を探し、形にしていく。楽しいですね。





印象に残っている作品は?

いろいろありますが、住宅でいえば「アトリエの家」です。まだ独立して3年程度の頃だったのですが、80歳の女性の画家のお一人住まいのアトリエ兼ご自宅を設計しました。いま住んでおられる場所を出ていかなければならなくなり、新たな土地に家を建てるご決断をされました。当時は、私自身が30歳過ぎという若さだったため実感できなかったのですが、今思えば、とても勇気のある選択をされたんだなと思います。人生の最後の最後まで命を燃やして生きていきたいという意志を感じました。1階がアトリエで、2階が住宅のつくりでした。1日1日をどうやって過ごしていくか、これからどういう生き方をしていくか、一つ一つのことに、後ろ向きに考えるのではなく、前向きに考えていく。そういう姿を通して、その方の人生に触れる思いがして、とても印象に残っています。





独立当初は、先程の画家の方や、パン屋さん、医師、獣医、ジャズミュージシャンなど、いわゆる自営業の方が多かったんです。8年ほどして、初めて会社勤めの方で依頼してきたのは、高校の同級生でした。友人だったせいか、随分細かいところまでこだわってきて、打ち合わせが幾度となく繰り返されました。様々な要望に応えることが設計業務の中心になってきて、建築の全体像が捉えにくくなり、できた住宅が建築として良いといえるのか自信がなかったです。ところが、この建物が雑誌に取り上げられると、非常に高評価を得て、これをきっかけに多くの依頼が来ました。驚きました。いろいろな要望をお聞きして、これまでとは違う世界観を表現できたことが、新たな転機として現れたのだと思いますね。


近年、自然素材を使う要望も多いと思いますが。

重度のシックハウス症候群というのでしょうか、アレルギー体質の方から依頼がありました。その方は、以前住まわれていた家のリフォームの時、その部屋をお姉様が使ったら体調が悪くなり、それで替わりに自分でお使いになったんです。そうしたら、ご本人もシックハウス症候群になってしまって。顔が腫れ、身体中が痒くて生活もままならない状況でした。専門医を廻り、いろいろな健康療法を試したそうです。ついに家を建て替えることになり、どうしたらまともな生活をおくれる家を実現できるか、悩んでいました。そんな時、私が設計した家の室内に入る機会があり、とても快適で気分がよかったそうです。それがきっかけで、相談に来られました。これほどの深刻なケースは私も初めてで、一から勉強し、お客様と一緒に調べながら建てていきました。
面白かったのが、例えば、柱です。木材は実は当たり前のように防腐処理してあることもこの現場で知りました。その防腐材が化学物質なのですが、それを無しにするとカビが発生するのではないかと、現場から指摘があり、建主も交えて話し合いました。化学物質よりは、カビの方がまし、ということで、防腐材を塗っていない材料にしました。実際にはほとんどカビは生えませんでした。また、接着剤が大きな問題になりました。当時は、接着剤に化学物質が入っているのが当たり前だったのですが、たまたまご高齢の家具職人さんが昔ながらのつくりに詳しくて、米を使った糊を使用することになりました。そういったことを一つ一つ積み上げて作っていきました。20年が経ちますが、おかげさまで、その方は、今も健康的に住まわれています。





施設の設計も手掛けられていますね。


沖縄の反戦地主のご夫妻から依頼がありました。夫は、平和の研究と普及に携わられる方、妻は、紙芝居の演じ手且つ児童文化の担い手であり書店の経営者でした。





ご夫妻は、供託された土地の資金を、これからを担っていく沖縄のこどもたちの未来に繋げたいということで、1階が絵本のお店、2階が日本初の紙芝居劇場からなる建築をつくろうと考えました。3階には平和や戦争に関する資料をもとに平和資料を作ることにしました。私は、絵本、紙芝居という文化がこどもの心にどう働きかけていくかに着目して、設計を進めていきました。絵本店は、絵本に抱かれてほっこりと落ち着く空間、紙芝居劇場は、紙芝居を見ている方々の心が、ふっと解き放たれる空間にしました。この建物には、沖縄の多くの方のご協力があってできた建物です。
限られた予算の中、曲線だらけの難しい施工にご協力頂いたり、新聞で大きく取り上げて頂いたりと、地域の文化や風土そして社会と、建築との関わりを体で感じ取ることができ、大変印象深かったです。





お客様の意見をよく取り入れられていると思います。

ありがとうございます。そうですね、野球でいえば、建築家ってキャッチャーだと思うんです。決してピッチャーではありません。一般の方々から見ると、最初に具体的な案をあらわす人として、ピッチャーのように見えるかもしれませんが、実は、一番はじめに要望や条件を詳しくお聞きするところがスタートなのです。建主の方の心の奥底にある要望を受け止め、それに応える形で、設計は始まっていきます。そのように作り上げていきたいと思っています。





事務所の運営はどうされていますか?


特に営業活動はしていません。仕事のクオリティーを保ちつつ、素敵なお客様に会えると良いですね。この業界の定説として、スタッフが一人増えると、社長がデザインに向かう時間は1割減ると言われています。私としてはそんなに事務所を大きくするつもりもありませんし、1つ1つの仕事を丁寧に仕上げていくことが大事と思っています。





独立する前から「建築は人の心に働きかける力を持っている」と考えていました。独立の時から大切にしていることは、「人間の内面と呼応する建築空間」です。設計では、住む方の内面世界に建築空間がどう影響するかをいつも考えています。人間は環境にとても左右されます。長い年月の中で一人一人の感じ方や考え方が変わってしまうほどだと思います。そういった意味で、建築をはじめとした人の周りの環境は、そこにいる人の思考や感覚の成長に影響を与えているわけです。ところが、使われる方々は、そういった建築や環境の影響力について意識していません。気付かないうちに大きな影響を被っているわけです。建築家が、そのことに想いを至らせて設計することが大切です。責任重大な仕事だと思います。



スタッフがいつも笑顔で好印象です。

お客様のお帰りの際に、スタッフ一人一人が挨拶することが、お客様にとって新鮮なようで好評です。私からは一度もそうするように指示したことはないのですが、いつの間にか伝統のようになり代々受け継がれています。そういうスタッフに感謝しています。





西島 正樹
株式会社 プライム 一級建築士事務所 代表
住所:〒160-0022
   東京都新宿区新宿5-10-10-4F
TEL:03-3354-8204

詳しいプロフィール
【編集後記】

多くの建築を手がけられ、そのひとつひとつの依頼者の心に寄り添うような仕事をしている気がしました。思考の柔軟性はもちろんですが、こだわりの「出しどころ」を熟知し、幅広い意見を取り入れる懐の深さを印象付けられました。一度、こちらの事務所に伺うとわかるのですが、事務所の雰囲気が非常に良いのです。よくあるギスギスした印象はまるでないのです。それだけ仕事をしているのが楽しいのでしょうね。また色々なお話をさせて頂ける日が来るのが楽しみです。

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