タマイアトリエ 1級建築士事務所が手がける
東高円寺リノベーション / S邸
きっかけ
タマイアトリエの玉井清さんが設計・監理している東高円寺の家のリノベーションを見学させて頂きました。東高円寺駅から蚕糸の森公園を抜けた先にある閑静な住宅街にその建物はあります。
築65年のかなり年季の入った建物は、もともと非常に良質な面影を持っていました。
一般的なリノベーションの場合、間取りを広く解放しいわゆるモダンな作りにする場合が多いこの頃ですが、今回のお施主様のご希望は、お父様が家族のために作った家を残したいということでした。
基本的な間取りや、今まで使われてきた水回りの壁に使われていたタイルなど。過去とお別れするのではなく、過去を受け継ぎ新たな命を吹き込む作業になります。
作業中の職人さん。
建て増しされて不安定な作りを整える
この家族の歴史を紡いできた建物は、途中で幾度かの建て増しがされていました。そのせいもあってか無理な荷重がかかり、ところどころで水平・垂直が取れていない箇所があります。また耐震性の基本となる基礎部分も、基礎自体がない箇所もありました。
まずは基礎をしっかりと打ち直し建物の土台を安定させます。そして以前の壁を取り払い、耐震補強を施します。
増築が繰り返し行われた影響か、土壁が残っていたり、部分的に断熱材が入っているところとないところが入り混じっています。
基礎を打ち直し土台も付け替えています。一部は土台からジャッキアップもして作業をしています。杉並区の耐震補強助成金を利用し、コスト面を少しでも軽くできるようにしています。高延性材というポリエステル素材でできた帯を接着するSRF耐震補強工法を採用しています。
ここは応接間として使われていました。古い暖炉が残っています。
玄関もより使いやすくなります。玄関横の部屋は納戸として使用されていましたが、今回の工事でお施主様のアトリエに変わる予定です。
メインの和室の柱も一部増設しています。昔ながらの柱を欠き込んで組み合わせる手法です。色合いが変わってしまいますが、それを変化として受け入れそのままにするかは検討中です。
床の間のちがい棚も一度そのまま外して元に戻す予定とのこと。大工さん苦労しています。
(玉井さん)
キッチンの間仕切りも変えていません。よく設計事務所がデザインすると、ガラッとキッチン設備の場所を変えたり壁抜いて広くしたりしますが、やはり元のままが良いという希望もあり間取りはそのままでデザインと機能を一新しています。
やはり水回りの痛みが激しく、キッチンの奥側は増築されたせいもあり基礎がありませんでした。新たにベタ基礎を打ちその上に土台を組み直しています。実は隣の家との距離が非常に狭く、増築の際にどうしていたのか想像すると、パネル状の壁を先に作りそれを起こして建てたのでしょう。
(玉井さん)
こちらはお風呂場。もともと貼ってあった金魚と花のタイルが非常に良い味を出していました。もちろんそのまま活かして使っていきます。
このタイルが昔の規格110mm角で現在はほとんど流通していません。現在は100mm角や90mm角がほとんどです。タイル屋さんに聞くとなんとか在庫していました。角に使用している半丸もどこかに在庫があるはずと教えて頂いたので非常に助かっています。
2階は天井を残して既存の風合いを活かしたホテルのような部屋になります。押入れの部分を撤去してベッドボードを配置予定です。
(玉井さん)
複雑な増築を重ねているため、解体すると内側から外観が見えていたりします。ここはもともとお施主様のお兄さまが使っていた部屋ですが、少しモダンなデザインを検討中です。既存の屋根部分に部屋を載せたような形の増築の方法ですね。当時は割合簡単に工事をしたようです。
そのせいもあり、少し沈んでいる箇所もあります。ジャッキアップして基礎打ち直してつなぎ合わせる作業をしています。
増築の名残が見えます。
日当たりも良さを活かした空間に、断熱補強もしっかりとしていきます。
お施主様にわかりやすくプレゼンをするために
(玉井)
もともとの暮らしを大切にして、昭和のデザインと令和の暮らしというテーマで住宅の基本性能と耐震性を確保した上でデザイン性の話をしました。一番最初にお話ししたことが、どのように解体をしていくかということです。かつての意匠を残しつつ、住まいの基本性能を確保する上で重要なポイントですから。
そこで作成したものが、各部屋ごとで進めるべき優先順位のリストです。基本設計や実施設計の際に照らし合わせながらお施主様と確認してきました。理解と納得を促しどう満足して頂けるかということに配慮することが重要です。
玉井さんスケッチ。
スッケチと図面を照らし合わせてお施主さまに説明していく資料です。
筑65年という家族の歴史を刻み続けた家が、どのような方針のもと生まれ変わるのかに非常に興味を持ちました。流行りのスタイルをそのまま受け入れるよりも、積み重ねた想いを次の世代に受け継ぐ。家を作るってこういうことが非常に重要と改めて確信しました。快適に暮らしつつ、紡いでいく家族の関係性。羨ましくも感じました。
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