住み紡いでいく家を時間軸で捉え、空間や間取りに落とし込むデザイン。
タマイアトリエ 一級建築士事務所 代表 玉井 清
どういった経歴ですか?
愛知県の名古屋に生まれました。その後引っ越したのは自然一杯の田舎で、小学生時代はカブトムシをガッサリ取ったりしていました。親父が大工をしていて、自分も大工になるんだろうと思っていましたけど、子供のころから「大学に行け」とよく言われていました。当時は学生紛争の頃で、そんなことをやりに大学には行きたくないと思っていたんですね。
ちょうどそんな時に、親父がデザイナーが書いた建築パースの本を見せてくれて、こんな世界もあるのかと思いました。それで早い段階から建築を学びたいと思って高専の建築学科に入り、卒業後は大学に編入しました。
大学では建築のデザインを目指している人は少なかったのですが、建築好きな仲間と設計コンペに応募していました。同期たちは、大手の日本設計や、梓設計、大成建設などに就職しましたが、自分は若手建築家の竹山聖率いる設計組織アモルフというアトリエ設計事務所に入りました。大学院在任中に、代表の竹山さんに図面を見てくださいとお願いして、そのまま居ついてしまいました。
当時は給料が安かったですね。給料が7万円ちょっとで、祐天寺で風呂なし4畳半アパートに住んでいました。家賃は2万円くらいでしたね。金は無かったですけど強烈に楽しかったです。
アモルフに8年在籍後独立しました。アモルフの後に、アモルフのパートナーだった榎本建築研究所の榎本さんに1年くらいお世話になって、仕事もないのに、まあ、勢いみたいな感じでの独立でしたね。同時に結婚と長女の出産も重なったりもして、よく暮らしていけていましたよね!そんな感じで独立していきました。
手がけたプロジェクトは?
アモルフでは西新宿ホテルや強羅花壇などを担当しました。ホテル系が多かったですね。バブルのせいか大きな建築が多く、ほぼ毎日プレゼンをしていました。それと展覧会の仕事もしましたね。
独立してまずは仕事探しでした。仕事もなく独立してどうしようみたいな状況でした。最初は、榎本建築研究所での仕事ぶりを見ていた方から声をかけて頂きました。今でもお付き合いがあるのですが、その方から、屋上にプールがある家に住みたいということで設計の依頼を頂きましたが、特に住んでいる家に大きな不満があるわけでもなくなかなか進まない。結局、最初に完成した仕事は、うちの子供が生まれた助産院の改築でした。(その後、屋上にプールのある家は完成し、雑誌に掲載されて仕事が増えていくきっかけになりました。)
その助産院の方から、今いるところが古いということで移転・改築を相談されました。当時、イギリス発祥のアクティブバースという考え方が日本に入ってきた頃です。水中出産などの「主体的なお産」のことです。それでバブル期に建てられた少し大きめの木造建築を、アクティブバース専用の助産院に改築しました。
家づくりのイメージができてない方が多いのでは?
そうですね。はっきりとしたビジョンがなくても大丈夫です。とにかくしっかりヒアリングをさせていただきます。その方の趣味や人生まで、雑談なども大いにしながら。住まい手がしっくり感じるまで提案・お打合せさせていただいています。最初は住まい方や時間のことをお聞きします。ストーリーまたはデザインのパーツなどから入る場合もありますし、様々ですね。
予算的なことももちろん重要ですよね。例えば、高齢の方が借り入れをしなければならないとすれば、店舗や賃貸を併設するような計画も提案することもあります。
本来、建築の寿命は長いものです。今の時点で住みたい家というだけでは、建物の経過とともに問題が発生することも考えられます。時間と共に過ごすこと、先のことを考えていかないといけません。
先日も「スターバックスに住む」というテーマで提案しました。「カフェに住むという妄想」をきっかけに、打ち合わせを進めている一例です。間仕切りのない中庭プランの一階をリビングにして、将来、店舗としても(一部でも)容易に貸せるように設計する。
将来を見越した構造計画をすることも、有効な資金計画のひとつです。常に未来に何ができるかということを考えています。
予算的なことももちろん重要ですよね。例えば、高齢の方が借り入れをしなければならないとすれば、店舗や賃貸を併設するような計画も提案することもあります。
また街づくりの視点からも、今ある建物や古いものをいかに活用して使うか、ということにも積極的に取り組んでいます。解体されていく建築もあるわけですが、しっかりと分解分類して、使えるものと地球に戻していく素材を分けて考えることも重要ですよね。
ご主人がグラフィックデザイナーで奥様がスタイリストのご夫婦が建て主の話なりますが、ちょっと塗装の塗り直しが発生しどうするか検討している時、「僕たちがこれを愛せるかどうかだから。大丈夫、愛せるから」と言われました。自分たちの判断の尺度がはっきりしていましたね。デザインに関連しているお仕事のせいですかね。確かに全部真っさらで作り直せば良いというものでもないのです。
住まいは「時間の入れ物」だと思うのです。新築でもお客様が住み始めると、あっという間にその方の時間が流れて集積されていく。インテリアもきちんとその人のスタイルでハマっていく。お客様は設計の段階から、寸法や空間の広さなどを勉強しながら進んでいきます。メジャーや三角スケールを買う方もいますね。徐々に建物が形になっていくと、壁に掛ける絵や皿はどういうのを買おうかと、楽しそうに考えておられるようですね。また、その街を歩いていても「他のお宅の外構ってどうなってるんだろう?」と、再度、頭の中を模索したりと。そうやって設計期間中から自分の家に愛着を持つようになっていく。
こういう感じに進んでいくのが一番良いですね。
とても柔軟な感じがしますね。
常にいろいろな角度で感じ考えたいと思っています。
いまの若い方はもっと柔らかい繋がりや思考があって、かつての物が溢れた時代の世代とは違うな、と感じることがあります。若い世代の設計者にも大いに刺激をもらっています。選択のバリエーションもたくさんあるけど、自分をしっかり持って自分のスタイルを確立しようとしてますよね。そういったことも踏まえて、建築家とインテリアコーディネーターみたいに、色々な業界の人がどんどん混ざり合って新たな世界を創り出せれば面白いですよね。(玉井さんは日本住宅リフォーム産業協会:通称ジェルコのデザインコンテストの審査員もされている)
それと、お客様と一緒に作業できるととても良いですね。思い入れも違いますし、家の構造などにも詳しくなったり、ご主人自ら庭にピザ釜作ったりして。私たち設計士が旗振り役で、それに従って付いていく感覚が多いと思われがちですが、それを一歩進めて、いい意味で共同作業者になれば家づくりも成功しやすいですね。
主にどんなプロジェクトを?
やはり住宅が多いですね。あまり大きなものはあえて受けないようにしてますね。そればかりに囚われてしまって、終わった後に気が抜けてしまう(笑)。
最近はリノベーションが多いので、部分改修にも注目しています。構造的部分は残して、一階に店舗を入れたりしながら町並みを残していく。建て替えほどコストも掛からないですし、街並みもしっかり残ります。そういったことを進めながら、色々な情報を集めています。都内に限らず、空き家は今後どのような使われ方をしていったら良いか。また、地方の風景と建物、例えば小屋のある風景などの情報を整理しつつ、未来でそれが実を結ぶ様に地道に活動しています。
土地探しも?
もちろん一緒に探したりしますよ。土地探しは設計者と一緒に廻ることをお勧めします。どんな生活がしたいかなどを話しながら、住まい手に合った土地を探します。よく勘違いされているのが、南向きの家が建てられる土地が良い(不動産的には価値があり、価格も高い)とされていますが、北側に開いた敷地でも十分明るく、心地よい住まいを建てることは可能です。住まい手に合った様々な考え方ができますので、事前に相談していただけるとより良い未来が開かれていくと思います。
気さくな雰囲気と飾らない物腰は、旧来の「御高くとまった」建築家のイメージを塗り替えてくれます。とはいえそこはプロ。普段の暮らしや理想とする生活を的確に捉えて形にする術は見事!リノベーションも頻繁に対応していて予算などの相談も可能です。楽しく話をさせて頂いたせいか、帰り道をニコニコしながら歩いていました。
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