鈴木 宏幸 インタビュー

自然素材を大切にした、豊かな自然環境のなかで、美しくゆったりとした時間を過ごす家づくりをしています。

アトリエ137一級建築士事務所 代表 鈴木 宏幸

簡単な経歴を。


大学ではどんなことを?

芝浦工業大学の建築学科を卒業後、そのまま大学院へ進みました。北タイに住む山岳少数民族の村や国内の離島での集落調査、研究をしていました。修士論文のテーマにした山岳少数民族の調査はとても印象的で、その後の人生を決定づけたと言ってもよい貴重な体験となっています。少し大げさですが(笑)。 信じられないかもしれませんが、当時の彼らのムラには文明的なものが一切ない!あっ、車はありましたけど(汗)。 調査となると、対象とするムラでの数日間の滞在を何度も繰り返すわけですが、実際にその場所を訪れ、電気も水道もない暮らしを体験して、人生観も180度変わりました。満月の夜の月あかりの美しさは、今でも忘れることができません。 山岳少数民族にはいくつかの民族がおり、それぞれ独自の文化を持っています。中国雲南省から南下してきた移動民で、北タイには、たくさんの村が広範囲にわたって点在しています。 調査の具体的な目的は集落や住まいを実測し図面化し、彼らの世界観や慣習が集落や住まいの空間構成にどのように反映されているかを研究することでした。 なかでもアカ族は特徴的で、その空間構成はとても興味深いものでした。中央の大黒柱でほぼ対称に男女で空間を分け、囲炉裏もそれぞれ、寝る場所もそれぞれ別です。その世界観、祭祀や儀礼などは体系立てて整理されていて、プリミティブな暮らしからイメージされる未開の民族といったものではなく、そのギャップは衝撃的でした。家自体は竹や草でできていて、とてもサスティナブル!入母屋の屋根など日本家屋の源泉を感じさせるものでした。日本人のルーツとして語る研究者もいるようです。







ボランティアもされていたとか?

「山岳民族の子どもたちに教育を」というものです。 調査にご協力いただいていた在タイの日本人のかたが中心となって、研究室が日本事務局となり、学生は実働部隊としてお手伝いといった感じです。当時は学生が日本事務局の連絡係をやったりして、至らないところも多々あったろうなぁと(汗)。

山岳少数民族は本来自給自足の暮らしを旨としてきており、経済的にはとても厳しい環境に置かれています。学校に通えない子、それ以上の苦境に立たされている子どもたちも多くいます。こうした負のスパイラルを断ち切るには教育しかないということで、子どもたちを預かり、学校へ通ってもらうプロジェクトを始めたのです。
私も在籍中は現地との連絡や広報誌の作成など、お手伝いさせていたただきました。また子どもたちが親元を離れ、学校に通うために必要な寮を設計させていただいたりもしました。


卒業後は?

働いていた設計事務所での仕事は、旅館や保育園など、わりと大きな物件が多かったのですが、私自身はもともと「住宅をやりたい」と話していましたので、住宅の仕事があると担当させてもらっていました。 大きな施設ではたくさんの人が関わりますし、これらの仕事を通して、大局的に考える力や現場での対応力はついたのかなと思います。





そして独立。


最初のお仕事は?軽井沢が多いようですが。

独立して最初の仕事は日光の別荘でした。家内がオーダーキッチンの仕事しており(現在は(株)リブコンテンツというオーダーキッチンの会社を主宰しています)、ありがたいことに彼女が以前キッチンを手掛けたお客さまがお友だちを紹介してくださったのです。 その第1作目が雑誌に紹介され、それをご覧になったかたから、「軽井沢で家を建てたい」とご依頼いただきました。このお宅がきっかけとなり、今では途切れることなく軽井沢でお仕事をさせていただくようになっています。軽井沢は寒冷地で、湿度が高く、特異な気候ということもあって、経験のある建築家に依頼したいというかたが多いようです。また移住されるかたからのご依頼も多く、軽井沢で最初に手掛けたかたは東京からの移住組でしたので、その経験も幸いしたのかもしれません。







やっぱり雑誌をご覧になってというかたが多いのですか?

圧倒的にインターネットからのお問い合わせが多いです。雑誌をご覧いただいてというのは独立当初の数年だけですね。
今はInstagramやSNS、ブログなど、ネット上にいろいろなメディアがありますが、当時はまだホームページすら持っていない設計事務所も多く、私もホームページでコラムを書いたり(ちなみに、そのホームページは自作!)、現場の進捗などを今のSNSのように頻繁に更新するということをしていましたね。小さな努力の積み重ねです(笑)。
インターネットからの需要が増えつつある時代にマッチしたのかもしれません。


住宅と別荘では何かと違うこともあると思いますが、そのあたりは?

住宅と別荘の違いに戸惑うことはなかったです。独立当初は特に、つくることに飢えていましたから、とにかく必死でやっていました。そのうち仕事の大半を軽井沢での計画が占めるようになり、別荘ばかりという時期が続き、もっと仕事の幅をもたせたいと考えたこともありました。建築家として、新しい住文化の形成に貢献するためには「都内の狭小地や法的な条件が厳しい場所でこそ」という思いも出てきて・・・。
でも、いろいろと経験を重ねていくうちに、軽井沢のような自然環境の豊かな場所でデザインすることが自分には合っているし、活かせると。そもそも、こんな環境のよいところで設計させてもらえるなんて本当に幸せです。そうなると話は早い!余計なことを考えず、いただいたお仕事に集中しようと決めました。不思議なもので、そうやって方向性を決めると、屋根のあるテラスを気に入った鎌倉のかた、外(庭)とのつながりを大切にしたい国立のかたといった具合に、様々な地域、敷地環境のかたからもご依頼が来るようになりました。


今も軽井沢を中心にといった感じですか?

そうですね。年に3〜4件は軽井沢のお宅です。あとは先ほどのお話のように国立、鎌倉、平塚などの住宅地で少し。割合的には軽井沢が7~8割です。
実績としては、熱海、君津やいすみなどの房総エリア、那須、八ヶ岳、河口湖周辺、甲府、遠いところでは白馬のほうでも手掛けています。敷地条件がよいところが多いですね。よいと言っても、なかには傾斜地もあったり、水道が通ってないところもあったりしてやっかいな場所も(汗)。







環境がよくても難題もありそうですね。
軽井沢のお宅のようなものをイメージしてご相談にみえるかたが、普通の住宅地だと難しいのでは?


住宅地であっても「その土地にあったつくり方がありますから大丈夫です」とお話ししています。場所によって環境は違いますので、もちろん同じようにはなりません。別荘地のようにパーンと開放的に計画しても、実際は開けられない・・なんてことになりますから。
住宅地ではプライバシーの問題もあります。周辺のかたの視線を気にして、ブラインドが閉め切りになるくらいなら、潔く壁にして、スッキリさせる!そのほうがよいこともあると思います。





デザインの特徴は?


造形的に素直なものをつくること。とにかく変なことをしないようにしています。日本は雨が多いので、建築後トラブルになるような無理のあるカタチにはしません。例えば、屋根の形を複雑にするような・・造形的に面白ければよいみたいなものはNGだと思ってます。
でも、雨樋とか、空調の室外機とか、そういった美観を損なうものは見えないところにつけるとか、当たり前のことですが、これは積極的に考えてデザインしていきます。
インテリアは自然系の素材をお勧めしながら、ご要望やご予算に合わせてご提案しています。私からよりも、むしろ建て主のかたから「○○にしたい」「○○はどう?」のほうが多いかもしれません。

空間はできるかぎりオープンなもの。「ひとつ屋根の下的な」とよく言いますが、大きな屋根の下につつまれるような空間づくりを目指しています。
お子さんがいる場合には、子ども部屋のつくり方をよくお話しします。個室が必要なのはわずかな期間です。お子さんの成長に合わせて、家具で間仕切るなどによって、個室へと変えていくようなご提案をすることが多いです。








ご提案はどのように?

ほとんどのかたがご要望を上手にまとめてきてくれますので、それを見ながらお話ししていきます。
私からは敷地環境のよいところでしたら、屋根のあるテラスをご提案することが多いです。屋根があればデッキも長持ちしますし。別荘では特に「行っても雨だった」ということもあります。そんなときでも屋根のあるテラスなら外を楽しめます。お住まいのかたなら、雨の心配をせず洗濯物を干すこともできます。また軽井沢のような避暑地でも夏の日差しはやっぱり暑い!屋根のあるテラスがあれば、日影で過ごすことができます。

設備的には「暑がり?寒がり?」「音は気になる方ですか?」といった質問もさせてもらいます。寝室の周りには、音の出る機械や配管スペースは置かないようにしています。ああいう静かな場所だと、普段気にならない音も気になったりしますよね。人によって感じ方が違いますから、そのあたりも気を付けながらお話をお聞きしています。
高断熱高気密といった建物そのもの性能もとても大切ですので、設備と建物の性能のバランスもご相談しながら進めていきます。








アトリエ137のコンセプトは?


最近はホームページやブログをよくご覧いただいていて、私より詳しいかたもいらっしゃいます・・そんなこと書いてましたっけ?みたいな(笑)
最初にお会いするときには必ず建築家としての私の家づくりに対する考えもお話ししています。
建物を設計し、つくるのが仕事ですが、主役はやっぱり人!住宅なら、そこで暮らす家族です。
家族の笑顔のために。健康のために。成長のために。どういった空間をつくったらよいか、日々考えています。
例えば、健康のために。自然素材や、光と風、省エネといったことをお話しています。お天気がよければ電気を点けなくても過ごせますし、窓を開ければ風が通って、中間期であればエアコンなんてつけなくてもいいとか。光と風が建築の基本ですし、それが省エネにもつながります。断熱や気密など建物性能がしっかりしていれば、消費エネルギーも違ってきます。








建築家に依頼するメリットは?ビルダーさんとの違いは?


建築家に依頼する最大のメリットは、自分たちのための家ができるということです。オリジナリティあふれるデザイン、機能的なプラン、デザインと機能性の両立など、いろいろあると思います。
ビルダーさんとの大きな違いに、見積があります。見積が出てくるタイミングやその内容など。ハウスメーカーさんや工務店さんは、それぞれ建物の仕様が決まっていて、仕様と金額をセットで比較するしかありません。プランも仕様も違っていては、そこから判断するのもかなり難しいでしょう。
設計事務所では、まずは自分たちの考えを反映させた計画があり、同じ内容、仕様による図面をもとに何社かに相見積をすることができますし、単価的にも、それが一般的なものなのか、高いのか、設計事務所のフィルターを通すことができますので、自分たちの希望する建物の工事費が適正なのかの判断がしやすくなります。
工事が始まると、監理者という第三者的な立場で、建て主の代理人として工事が間違いなく行われているか、確認することができます。これらが建築家に依頼する大きなメリットです。プランやデザインだけでなく、実務的なところでも建築家の役割は大きいと言えます。



建築家への依頼はハードルが高いと感じているかたも多いのでは?

最近はSNSも発達して、建築やインテリアの写真もあふれていますし、建築家の素顔も見やすくなっていますので、以前に比べると、ずいぶん身近になったのかなと思います。実際に気さくなかたが多いですから、気軽に声をかけていただけたらよいなと思います。私へのご依頼も、ほとんどのかたがインターネットで、ブログもよくご覧いただいているみたいです。
とは言え、家づくりを考え始めたときに住宅展示場に足を運ぶかたも多く、まだまだ「建築家に依頼する」という選択肢を知らないかたが多いようです。たまに、ビルダーさんに依頼したものの希望通りのプランにならなくて、どうしたらよいかと途方に暮れて「建築家なら解決できるかも」と相談にみえるかたもいます。
これは私たち建築家にも少し責任があるのかもしれません。もう少し建築家同士でも協力して、「建築家との家づくり」を広めていかないといけませんね。





設計監理の方法は?


もともと建築家の仕事に対応するのは、なかなか難しいところも多いです。住宅規模の現場では担当する人員も限られますし、建築家は細かいことにも、いちいちうるさいですから(笑)
現場の監督さんはとても大切なポジションです。職人さんに対して、どの程度コントロールできているか、つまりどのくらい信頼されているかがとても大切になってきます。
信頼関係ができていれば、職人さんのスタンスも変わってきますし、そのあたりを見極めながらやっています。職人まかせの監督さんは、ちょっと気をつけないといけません。しっかりコントロールできる、力のある監督さんだと楽ですね。当たり前ですけど。
このあたりも見積のときに、現場監督の経歴書も一緒に提出してもらっています。「この工務店さんにお願いしよう」となったときには担当する監督さんとの面談が必須です。
余談ですけど、職人さんの高齢化。これは深刻な問題です。今、軽井沢で一緒に仕事をしている職人さんも70歳近くになってきていますから・・あと10年は難しいかもしれません。なかなか頭の痛い問題です。
40代の若い大工さんで頑張っているかたもいますので、そういった流れがもっと出てくるとよいと思っています。





キッチンはやっぱりリブコンテンツでつくることが多いですか?


アトリエ137では、ほとんどのかたがそうですね。デザイン的にも空間に馴染みます。
そもそも建築家に住宅を依頼するくらいですから、キッチンにもこだわりのあるかたが多いですよね。必然的にオーダーでと。なかには鍋の高さまで測ってくる強者もいらっしゃいます。






オーダーならインテリア性はもちろん、レイアウトの自由度も高いですし、機能面でもいろいろ工夫できます。引出しの高さや段数、どこに何をしまうと便利とか。
私は家内がオーダーキッチンのデザインをやっていますし、これまでもたくさん携わってきていますので、機器の種類や特徴なども他の建築家に比べると、よく知っているほうだと思います。これまでの経験から、プラン的にも使いやすい機能的なサイズ感で最初からご提案していますので、そこもよいところかもしれませんね。でも、実際に細かなところをいろいろ考えるのは家内ですけど(笑)
とは言えキッチンにこだわらないかたもいますので、何がなんでもオーダーでとゴリ押しすることはありませんので、ご安心を(笑)







キッチンもそのかたによって、ずいぶん違うものですか?

キッチン周りはリビングやダイニングよりも個性が出ますね。
ひとりでキッチンに立つ、家族や友人みんなで料理する、カウンターでお茶したり、お酒を飲んだり、キッチンの使い方は本当に人それぞれです。
キッチン絡みでは家事動線もセットでお話ししています。パントリーを用意したり、ユーティリティやシューズインクロークなど、他の空間とのつながりをどうするか等々。
テラスも、ダイニング側にするか、リビング側にするかでも少し違ってきます。ダイニング側なら食事つながりですし、リビングならお茶やお酒など、家族の団らんやお友だちとの会話がメイン。どちらにしても、キッチンからの動線はよくしておきたいですね。



ソファやテーブルなど家具は?ブラインドとか?

家具やブラインドも合わせてご相談いただくことも多いです。建て主のかたもそれぞれ思い入れがありますので、ソファやダイニングチェアなど自分たちのお好きなものを自由に選んで、お引き渡し後に初めて拝見することもあります。 お庭や植栽も同じですね。ご相談いただいて進めることもあれば、お引渡し後ご自身で少しずつ手を入れるかたもいらっしゃいます。








今後は?


このまま続けていければ満足という思いもあります。あんまり大げさなことは考えていません。

ただ・・・人を育てたい!

というとおこがましいですが、職人さんの技術であったり、私自身の設計手法や実務も伝えていきたいですね。
先ほども少しお話ししましたが、職人さんの高齢化は深刻で、「職人さんを育てる」環境づくりができるといいなと思っています。それが学校みたいなものなのか何かは難しいですが・・・やっぱり実践のなかで培ってほしいという思いはありますし、そういう意味では、ある程度ご予算に余裕のあるお宅を手がけることができれば、職人さんにも十分腕を振るってもらいたいと思っています!富裕層のかたは、ぜひハウスメーカーではなく、手仕事を大切にした家に暮らしていただいて(笑)
もちろん、たくさんのかたにその良さを感じられる暮らしをおすすめしたいです。
職人さんも、以前のように弟子を抱えられる時代ではなくなってきています。日本の持つ技術をしっかり受け継げるように、みんなで支えていきたいですね。
私が直接的にできることとしては、若いひとに自分の学んできたことを伝えたいと思いますね。かつての自分がそうであったように、右も左も分からないけど、情熱だけはある!というような。
情熱だけではできませんから、実務的なこともしっかり覚えて、自分が考える建築を描き、実現し、建築を通して、よりよい社会づくりに貢献してくれるような、そんな若者の力になれたらと思います。









鈴木 宏幸
アトリエ137一級建築士事務所 代表
住所:〒152-0023
   東京都目黒区八雲3-7-4
TEL:03-5726-9137

詳しいプロフィール
【編集後記】

インタビュー後に文字起こしをし、その後編集作業に入るのですが、これがまた相手によって表現方法がまるで違うんです。すごく堅い印象の方もいれば、こんなこと言ったっけ?なんてこともあります。鈴木さんはインタビューの時もそうでしたが、とても気さくな方。建築家が抱える問題なども包み隠さず話して頂けました。しかし人に歴史ありですね!まさか部族の建築まで経験されていたなんて!

関連記事

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP