東京都文京区
「蔵を残したい。蔵が道路から見えるようにしたい」 建主の思いに反して蔵は、公道から私道を経た先の最も奥まった場所に建っていました。公道から蔵が見えるようにするには、集合住宅をどう建てたらよいか。思案の末、上階にいくほど大きくなる逆台形の形に思い至りました。足もとは小さいので、公道から蔵への視線は遮られない。一方、上を大きくすることで集合住宅の面積を確保でき、事業的にも成立します。
視線を確保しつつ床面積を確保しようと、縦方向に斜めにせり出すだけではなく、平面的にも手前がせり出し奥に行くほど引っ込む斜めの形としました。その結果、両方の斜めがぶつかる前面は、鋭くとがった外形が生まれました。このとがった逆台形の輪郭と蔵との対比しあうことで、お互いが際立てあう関係をむすべないかと考えました。
例えば、蔵の重厚感に比して集合住宅は軽快感。蔵の鉛直性に対して集合住宅の鋭角の斜性。蔵の閉鎖感に対して集合住宅の空へと向かう開放感。蔵の地面から生えたかのような存在感に対して、空から地面に突き刺さったかのような逆台形のシルエット。
この対照的な蔵と集合住宅とをつなぎ合わせる場として、道から蔵へと続く道筋を空間構成の中心と位置づけ、豊かな表情をあたえていきました。床のストライプは、1本越すごとに蔵へと近づくことを感じさせる結界となり、そのストライプに、集合住宅の外観イメージへと連なる斜線を感じさせるデザインを組み込んでいきました。夜は蔵のライトアップとともに、ストライブを照らすフットライトになり、印象的な佇まいとしました。蔵が醸し出す時の流れの中で、空へと広がる建築造形。そこから未来への思いの広がりが育まれる、そんな建築空間であればと願っています。
■構造
構造は安全性を重視し免震構造としました。上が大きい形は自ずと、反対の垂直面側の免震部材に引っ張り力が発生しがちです。それを防ぐため、平面を垂直面側が大きく、斜めにせり出した側が小さくなるようにしました。免震構造によって、上部構造は弾性限界内の設計となり、4隅にL型の壁柱の配置が可能となりました。これにより、各室の居住空間を凹凸なく確保でき、すっきりとした内部空間を実現しました。
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