森村 厚 インタビュー

伝統的な和風住宅から、現代的な和モダン住宅まで、日本建築をベースにし、住む人の好みに合わせたデザインの住宅を設計しています。

一級建築士事務所森村厚建築設計事務所 代表 森村 厚

設計士なるきっかけは?


大阪市の野江の長屋で生まれ、父の転勤で三重県に引っ越しました。その後、工業高校の建築学科に行きましたが、その時はあまり設計に興味が湧きませんでした。
一般的に工業高校から大学に行く人は少ないのですが、少し頑張って長崎県の大学に進学しました。
就職は東京にある伊丹潤さんの事務所でした。2年半在籍し、それから川口通正さんのところで7年半在籍したのち独立しました。もうそれから13年経ちました。

小学校、中学校とあまり勉強をしていなかったので、高校に入る時はとても苦労しました。どうしても大学に行きたかったので、高校からは真面目に勉強するようになり、なんとか大学には入りましたが、まだ設計でやっていくという気はなかったです。
きっかけはゼミでコンペに応募したことです。幸運にも全国で3位になりました。その表彰式が東京であったのですが、大学が上京費用などの費用を全部出してくれました。
田舎の大学だったんで周りにチヤホヤされましたね。パーティー会場では、黒川紀章さんが黒塗りの車でバーンと横付けされて、すごいなぁって。当時は、建築家ってそんな人ばっかりと思っていました。そんな華やかな世界に憧れた部分もありましたね。






4年生になり就職活動を始めるのですが、コネも紹介も何も持っていません。
直接色々な事務所に手紙を書いて、オープンデスクとして受け入れてくれないかとお願いしました。
大阪、名古屋、東京それぞれ2週間ずつ行くことになり、東京では高校生の頃に、新建築で「墨の家」を見て以来ずっと憧れていた伊丹潤さんのところに、ホテル住まいをしながら通いました。ありがたいことにそのまま就職することが出来てすごく嬉しかったのをよく覚えています。

事務所自体はわりとのんびりとした雰囲気で、伊丹さんとも直に接することができました。ただ当時は仕事量も少なく、海外の仕事が多かったので、なかなか現場を見れずにいたのが不満でした。
それで伊丹さんのところを辞めて、違う事務所に行くことにしました。
渋谷西武でアルバイトをしながら就職活動をし、川口通正さんの事務所に入りました。
川口事務所はうって変わってすごく忙しかったです。住宅がほとんどなのですが、入ってすぐに担当につけて頂いて、細かいことのすべてを教わりました。
まだまだ経験不足でしたので、デザインだけではなく、契約の仕方から、モノの作り方、打ち合わせの仕方、記録の仕方まで、細かい実務を徹底的に教わりました。
そういう意味では、伊丹さんは、現代美術、古美術など建築をふくめた芸術について、広い視野でのことを教わり、川口さんのところでは、和風住宅を中心に実務を鍛えられました。お二人の影響というのは大きいというか、非常に身に付いています。

川口さんのところで7年経った頃、店舗の設計をしたくて他の事務所に行くつもりでいたんです。その時に、たまたま仲の良い塗装屋さんから釣りのお誘いがありました。釣りをしながら色々な話をしていく中で、「そんなことより年齢もいい歳なんだから、自分で独立したほうが良いんじゃないか」と言われました。
そういったこともあって独立の道を選びました。でも仕事はまったくありませんでした。
独立当初は、他の事務所の色々な仕事をお手伝いして食いつないでいました。木造住宅や大きなマンション、ホテル、保育園など、とにかく色々な図面をたくさん書きました。

そんな中、最初の仕事が来たのは、大学の友人宅の依頼でした。
外注で食いつなぎながら友人の家を設計していましたね。
その後、何件か仕事をした後に、「ビフォーアフター」の話がきて露出も高くなり、同時にホームページを作ったおかげもあり、次第に依頼が来るようになりました。





どんな方から依頼が?


基本的に、和風建築の考え方を活かした家を求められることが多いのかな。
それと、初めて来られた方をお客様扱いしないですね。
というのは、決してぞんざいな扱いをするということではないんですが、実際、家を作るということは非常に大変なことなんです。その方のプライベートな部分も共有しなければなりません。そうした時に、お客様に提案してそれを単に検討してもらうだけではなくて、共に戦うみたいなイメージを持って頂けるようにしています。
一番大変なお金の問題も、予定していたものが予想外に高かったりして実現できないとなったら、代替案を予算内でデザインを崩さずに一緒になって考えていく。
住宅の場合、いわゆるお客様だと、こちらがすべてお膳立てして「イエス」「ノー」だけを答えていくようなこととは、ちょっと違うと思います。
そうではなくて、施主と一体になって作った方が、良い家ができると思いますし、家自体に対する思い入れが違ってきます。
その方の個性をしっかり共有しながら、私の考え方とミックスして作っていくんです。そうすることによって、自然とその方の住みたかった空間が心の奥の方から湧き上がってきます。それには、答えのない人それぞれの考え方や、習慣をしっかり聞き出すことが重要ですね。だから共に戦っていくようなイメージなんです。
それと施主の本当の目的をしっかり掴むことが大事ですね。
その空間で本当は何をしたいのか。またインテリアでも、どういったものを置きたいのかなども重要な要素ですね。





ご自身の個性はどう出していく?


一口には言えないですけど、窓が多くていろいろな方向から光が入ってきて明るい、とはよく言われますね。必ずしも南側に窓を大きく開けるかと言うとそうでもなくて、北側の安定した青い空を見えるようにしたりします。
小さい家でも視線が外に抜けるように配慮します。窓の配置に非常に気を使いますね。光の入り方や、広さの感じ方が全く変わってくるので。
それと必ずどこかとつながっていくことは意識しています。外と中や、内部でも上下階が繋がっていたりと、それが楽しさに繋がっていたり、気持ち良さに繋がっています。





最近思うのは、あまりデザインをしようとしていませんね。
家の形とか間取りとかはまずはどうでも良くて、それよりもその方のライフスタイルや、その人固有の動きがあったりします。その上でその空間を考えていく。その空間に居た際に、こちらに向いたら広がった空間が見えるみたいな。
家という形が先あるのではなくて、まずは人の動きをベースに空間を作っていきます。
それと中と外の関係性を大事にしています。
敷地と周りの環境に対して中の空間設定を決めていきますが、いくら外観ばかり重視しても、窓を中から眺めたとき外がお隣さんの塀だったら意味がありません。それならちゃんと視界が広がるような位置に窓を付けていく。
よくやるのは階段の正面に窓を開ける事ですね。そうすると階段を上がる時に空が見えて視界の広がりがあります。





   


最近の案件は?


いくつか再建築不可の物件をやりましたね。
フルリノベーションです。皆さんは安いと思っていらっしゃるかも知れませんが、そこまでいくとかなりお金も掛かります。1000万2000万とか。そういうのってそれぞれ事情があるんです。
またその場所で工事をする際もなかなか大変です。車も入れない細い道の場合は、資材もすべて手運びです。またフルリノベーションでは地盤改良がまず出来ません。そういった意味では、耐震性を担保するのが難しいかも知れません。
それと売買する際に値が付きにくいかも知れません。ただ、そういう家をガラッと住みやすく変身させるのは楽しいですね。






この前は在日外国人向けのゲストハウスを作りましたね。少し前まではホテルラッシュでしたからね。



仕事の仕方は?


私が考える良い図面というのは、誰もが図面を見てはっきりと分かることです。
大工も発注業者も悩まなくて済み容易に作業できる。結局なにも指示がない図面は、その指示自体を設計者の代わりに誰かがやっているんですよね。その作業をなるべく現場サイドにさせない。そういった良い図面を作ることを心掛けています。
また間違いが起こらないように、丁寧に描いた図面を基本として、綿密なコミュニケーションを取っていく。現場でもやはりコミュニケーションが大事です。
きちんとした図面を基本としていますので間違いが起こり難い。起こってもどこが間違いか明らかになります。
初めての工務店と仕事する際は、社長の人間性や、現場を仕切る監督さんをしっかり見ます。社長がモノづくりの好きな方だったりすると、現場監督が生き生き働いていますし、先回りして仕事をしてくれますね。そうすると信頼関係が生まれてきます。
それに良い現場監督さんには良い職人さんが付いてきます。結果、より良い家ができます。設計者と現場と施主が本当にいい関係が出来上がります。



これからは?


そうですね、今までやってこなかった若い世代を育てて一緒に物作りをしたいですね。今の世の中はお金お金みたいな感じになっていますので、もちろん予算はありますが、これからもしっかりと良いものを作って、施主、現場、設計者が家づくりを楽しめるといいと思います。







森村 厚
一級建築士事務所 森村厚建築設計事務所 代表
住所:〒151-0063
   東京都渋谷区富ヶ谷2-21-1-1101
TEL:03-3468-0544

詳しいプロフィール
【編集後記】

伝統的な日本建築を踏襲しつつも和モダンという概念に収まらない自由なつくりをしています。和の要素が必要な方や和菓子の店舗など、多様な活躍が期待されます。とても気さくな方でチームで家づくりを進める感覚はとても共感を得ます。実際、とても人当たりが良くてついつい長話をしてしまい、長崎で過ごされた話に花が咲きました。こんな方としっかり仕事をしてみたいものです。

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